家族への生前贈与は相続分に影響するの?①―特別受益の基本的な計算方法―

当事務所でよくあるご相談事例

【事例】今般、母が亡くなりました。父は、すでに他界しています。母の相続人は、私と弟の2名です。母の遺産は、私が居住する自宅(土地建物合計で現在の評価額は2000万円)と、1000万円の預貯金だけです。私は弟とは昔からあまり仲が良くなかったのですが、四十九日の法要が終わった頃から「俺にも半分もらう権利があるから現金で1500万円払え」と言われてます。弟に半分権利があることは私も承知していますから、支払いに応じなければならないことは分かっています。私は自分の自宅だけ相続できれば十分です。ただ、遺産の預貯金は1000万円ですので、500万円足りません。私には現在大学生の息子が2人おり、500万円を捻出する経済的余裕がありません。弟は「家を売ってでも支払え」というのですが、その弟は、20年前にマイホームを新築した際、母の預金から1000万円を提供してもらっています。この点は考慮されないのでしょうか。

「特別受益」とその具体的な計算方法

 上記のケースでは、弟さまが生前に受領したマイホーム新築資金1000万円は、弟さまへの相続分の前渡しと見る「特別受益」というものに該当すると考えられます。

 相続人の一人が、生前に他の相続人に比べて突出した生前贈与を受けていたような場合、遺産分割の場面で法定相続分にのっとり相続人全員が平等としてしまうと、生前贈与を受けている相続人とそうでない相続人との間で不公平となってしまいます。これを調整するのが「特別受益」です。

 つまり、相続人の中に亡くなった方から生前に不動産などの贈与を受けた人がいる場合、この贈与を「特別受益」として、相続開始時点で亡くなった方が持っていた財産に加算し、これを相続財産とみなして相続分を計算することになるというわけです。

 上の事例では、具体的に次の①~③のような計算をすることになります。

① 遺産総額に特別受益相当額を加えます(これが「みなし相続財産」です)。

  3000万円+1000万円=4000万円

② みなし相続財産に基づき、法定相続分相当額(兄弟二人が相続できる権利)を計算します。

  4000万円×1/2=2000万円

③ 特別受益のある相続人について、特別受益分を控除します。

  兄:2000万円-0円=2000万円

  弟:2000万円-1000万円=1000万円

 したがって、事例では、弟さまが請求できる権利は1000万円ということになり、預貯金全部を弟さまに相続してもらえば、自宅を売る必要も相談者の方自身の預金を取り崩す必要もありません。もっとも、この分配方法に弟さまが納得されるかどうかは別問題です。特別受益のことを説明しても理解してもらえない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて解決を図ることも検討しましょう。裁判所を介さないで普通に相続人間で遺産分割協議する際には、特別受益というものはあまり考慮せず、持戻しがなされることはそれほど多くない印象ですが、家庭裁判所の遺産分割調停や審判手続きでは、当事者から特別受益が主張されたり、手続きの過程の中で当事者の主張の中にこれをうかがわせる事実の陳述があれば、裁判官などがその有無や範囲につき審査・判断をすることはよくあります。

持戻し免除の意思表示

 亡くなった方は遺言などで、遺留分の規定に反しない限り、持戻しを免除する(相続分の前渡しとして扱わず、贈与額が遺産に加算されない)意思表示ができます。これは、相続人間の公平を図るとともに、特定の相続人に対して特別の利益を与えることが亡くなった方の意思ならば、それを尊重しようという理由で認められています。この意思表示は、遺言書でする明示的なもののみならず、「黙示の意思表示」でもよいとされています。

 この黙示の持戻し免除の意思表示は、一般的に、亡くなった方が特別受益を受ける相続人に対して相続分以外に遺産を相続させる意思表示を有していたことを推認させる事情がある場合に認められるとされています。たとえば、以下のようなケースなどでは、黙示の持戻し免除の意思表示が認められることがあります。

① 相続人全員に同程度の贈与をしている場合

② 特定の相続人が家業を継ぐため相続分のほかに財産を相続させる必要がある場合

③ 妻の老後の生活を支えるため贈与する場合や病気や障害等のために独立した生計を営むことが難しい相続人の生活保障を目的として贈与する場合

④ 亡くなった方が生前贈与の見返りに利益を受けている場合(亡くなった方と同居するため居宅を建設するにあたり土地の無償使用を認める場合など)

 なお、余談ですが、直近の民法相続法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、居住する建物またはその敷地について遺贈または贈与をしたときは、遺言書で明示的な意思表示をしていなかったとしても、持戻し免除の意思表示があったものと推定するという規定が新設されました。

 次回以降は、特別受益に該当するもの・しないもの、特別受益の評価や立証方法などについて、お話ししたいと思います。

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