家族への生前贈与は相続分に影響するの?③―特別受益の評価と立証方法―

特別受益を評価する基準は「生前贈与時」か「相続開始時」か「遺産分割時」か?

 問題になるのは、特別受益の評価基準時です。これについては、「相続開始時」とされています。たとえば、亡くなった方が相続人に生前土地を贈与したとしましょう。その贈与当時の価格が4000万円であったとします。この土地は、時を経てどんどん値下がりしていき、相続が開始した時の評価額は3000万円となりました。そして、相続で遺産について協議をし、それがまとまった時の評価額が2800万円であったとします。このとき、特別受益としての土地の評価額は、「相続開始時」である3000万円で評価することになります。

 また、特別受益の評価方法ですが、金銭が贈与された場合には、原則として貨幣価値の変動を考慮して算定するものとされています(同じ金額でも今と昔ではその購買力に差が出てしまうため、実務では消費者物価指数などを参考に相続開始時の貨幣価値で算定します)。一方、不動産など、金銭以外の財産の贈与の場合は、通常、貨幣価値の変動は考慮せず、相続開始時の時価(取引価格)となります。

贈与財産が滅失したり、価格の増減があった場合

 特別受益の持戻し計算をする場合において、贈与した財産がすでに滅失したり、またはその価格に増減があった場合でも、それが贈与を受けた相続人の行為によるときは、その財産が相続開始時においてなお現状のまま(贈与を受けた当時の状態)であるとみなして、評価するとしています(民法第904条)。ここでいう「滅失」は、物理的な消滅(紛失・盗難・焼失等)のみならず、経済的な消滅(売却や贈与等)によるものも含むとされています。また、「価格の増減」とは、贈与財産の価格が贈与を受けた相続人の労力や費用の支出によって増加したり、使用・損傷等によって価格が減少したりする場合であるとされています。

 たとえば、生前に居住用不動産の贈与を受けた相続人が、その不動産を3000万円で売却した場合、相続開始時にはその相続人の所有でなくなっていたとしても、なおその不動産が贈与を受けた時のままの状態であるとみなして評価することになります。相続開始時において贈与された不動産が4000万円と評価されるのであれば、特別受益の額も4000万円として持戻し計算を行います。また、贈与された建物が増築されてその価値が増加したとしても、増築前の建物について、相続開始時の価格で評価します。

 以上のように取り扱う理由としては、価格の増加分は贈与を受けた相続人固有の取り分であるし、減少分はその相続人の負担であり、贈与財産本来の価値をもって計算することが相当であると考えられているためです。

 また、天災等の不可抗力など贈与を受けた相続人の行為によらないで贈与財産が滅失した場合は、何も贈与を受けなかったものとして相続分が計算されますし、価格の増減があった場合には、変動後の贈与財産の相続開始時における価格によって評価されることになります。

特別受益の立証は容易ではない

 前回のコラムでも解説しましたが、実務上、特別受益の持戻しがなされるようなケースはさほど多くありません。これは、すべての生前贈与が特別受益に該当するわけではありませんし、黙示の持戻し免除の意思表示が認められるケースが多いためです。また、特別受益の事実を特別受益者が素直に認めれば問題ないのですが、認めなかった場合には特別受益であることを、具体的な時期や金額を特定したうえで、その根拠となる証拠とともに立証しなければならないでしょう。これが難しい場合が少なくありません。とりわけ、家庭裁判所での遺産分割調停や審判手続きの場面で、特別受益の主張を認めてもらうことは簡単ではありません。裁判官としても、具体的な資料に基づく証拠が無ければ、公正な判断ができないからです。

 特別受益としての生前贈与があったことの基本的な証拠としては、財産が亡くなった方から特定の相続人に譲渡された事実、さらに贈与の合意があったことを証明する必要があります。家族間で贈与の合意をしたことを書面で取り交わすことは少ないと思いますので、贈与の合意の存在を推測させる事情を主張し、証明する必要があります。

 たとえば、金銭の贈与であれば、預金通帳や振込明細書、亡くなった方の日記やメモ、手紙、メール等が考えられます。不動産の場合は、贈与対象不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)等を取得することから始めましょう。これ以外にも、贈与の動機の立証など、ケースに応じて様々な証拠資料を集めなければ、特別受益が認められない場合があります。

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