中小企業の株式譲渡における注意点 -株券交付のない株式譲渡-

 今回のコラムでは、主に中小企業における株式譲渡の注意点につき、解説します。

 中小企業では、定款上「株券発行会社」(会社法117条7項)となっている会社(例えば、定款に「当会社の株式については、株券を発行する」という記載がある会社)が散見されます。このような会社で株式譲渡する際、手間や保管上の問題、またはそもそも法律をご存じでないがゆえに、株券を交付しないで株式の譲渡を行おうとされている会社様がいらっしゃいます。このコラムでは、株券発行会社が株券の交付のない株式譲渡を行った場合、どのような問題点があるのか整理します。

法令改正と株券譲渡

 昔(平成16年改正商法以前)は、すべての株式会社において、株式譲渡をする際には必ず株券の交付が必要とされていました。その後、会社法が施行され、施行日である平成18年5月1日時点で、株券を発行しない旨の定款の定めがある場合を除き、株券を発行する旨の定めがある会社とみなされ(整備法76条4項)、かつ施行日に株券発行会社である旨の登記がなされたものとみなされることとなりました(整備法113条4項)。注意しなければならないのは、このような会社は現に株券を発行していなくても、株券発行会社であるということです。「うちの会社は一度も株券なんて発行したことはない。だから株券不発行会社だ。」と勘違いされる方も多いのですが、実際に株券を発行していなくても、定款上「当会社の株式については、株券を発行する。」等記載されているのであれば、その会社は株券発行会社です。

 なお、株券発行会社であるにも関わらず、株券を発行しないことが問題となりそうですが、全株式譲渡制限会社(大企業や上場企業を除く世の中の会社の殆どが該当します)においては、株主からの請求があるまでは、株式会社は株券を発行しないことが認められており(会社法215条4項)、株券不発行状態であることは適法であり問題ありません。

 ちなみに、会社法では株券が存在しない「株券不発行会社」であることが原則であるため(会社法214条)、会社法施行日以降に設立された会社の大多数は株券不発行会社です。なお、株券発行会社が株券不発行会社となるためには定款変更手続が必要です。会社法施行前に設立された中小企業では、株券不発行会社とする定款変更を行わないまま、会社法上の株券発行会社となっているケースが少なくありません。

株券の交付のない株式譲渡の法的効力

 株券発行会社の株式譲渡は、株券を交付しなければその効力を生じない(無効)ため(会社法128条1項)、当事者の合意だけでは足りず、譲渡人が譲受人に株券を発行して初めて、株式譲渡の効力が生じることになります。したがって、現に株券が発行されていないのであれば、譲渡人は会社に対して株券の発行を請求し、会社から株券の発行を受けたうえで譲受人に株券を交付する必要があります。また、株券の交付は、現実の引渡し(民法182条1項)に限らず、簡易の引渡し(民法182条2項)、占有改定(民法183条)、または指図による占有移転(民法184条)のいずれの方法でも問題ありません。

 ちなみに、株券不発行会社では、株式譲渡をする場合、当事者の合意のみで効力が発生します。したがって、株券の管理などが負担と感じるのであれば、株券不発行会社に定款変更した方が無難です。

問題点と実務対応

 株券発行会社で株券の交付のない株式譲渡が行われた後に株式譲渡を行ったり、株券発行会社から株券不発行会社へ定款変更したとしても、過去の株式譲渡が有効となるわけではありません。よって、過去に株券の交付のない株式譲渡が行われていると、株主名簿記載の株主と実際の株主に食い違いが生じるため、株主総会の手続きにも支障をきたすなど、安定した会社経営の妨げとなってしまいます。

 次に、株券発行会社において、株券の交付のない株式譲渡が行われていることが判明した場合、実務的にどのような対応が考えられるか、検討したいと思います。とりあえず考えられる対処方法としては、株券交付を欠いた過去の株式譲渡について株券交付をやり直す方法があります。実際には、現在株主とされている者に対し、物理的に株券を交付した後、本来の株主と現在株主とされている者との間で、簡易の引渡しが行われたことを確認する書面を締結する方法などがあると思われます。ただし、これを行うことによって株式譲渡の効力が遡及的に完全に治癒されるわけではなく、あくまでとり得る措置として次善の対応策であることには注意が必要です。また、この方法は過去の株主の協力が必要となるため、慎重な対応が求められるでしょう。

 いかがでしたか。法律に則った株式の譲渡を行わなければ、会社経営に支障をきたすなど、様々なトラブルを誘発する要因となります。株式譲渡をご検討の方は、ぜひ弊所へご相談ください。

無料相談受付中

誠心誠意、心を込めて対応いたします。

営業時間 平日9:00~18:00

026-219-6825(ご予約受付時間 平日9:00~19:00)

土日祝日相談・夜間相談・当日相談・出張相談

メールでのお問い合わせは24時間受付(原則24時間以内にご返信)

無料相談受付中

誠心誠意、心を込めて対応いたします。

営業時間 平日9:00~18:00

026-219-6825(ご予約受付時間 平日9:00~19:00)

土日祝日相談・夜間相談・当日相談・出張相談

主な対応エリア
若槻大通り沿い
長野電鉄信濃吉田駅から車で5分
駐車場完備
※電車でお越しの場合は信濃吉田駅または北長野駅が最寄駅です。