遺産分割協議が長期間まとまらない場合の不利益(改正民法対応)

 今回は「遺産分割協議が長期間まとまらない場合の不利益」について解説します。
相続人全員で誰がどれだけ相続するかを話し合う(これを「遺産分割協議」といいます。)際、意見がまとまらず、協議が成立する見通しが立たないケースはよくあります。このような場合、何か不利益はあるのでしょうか。

遺産分割協議に期限はあるのか

 結論から申し上げると、遺産分割協議に期限はありません。したがって、話し合いがまとまるまでは、いくらでも時間をかけることができるということです。

 ところで、相続税が発生する場合、相続税の申告・納付は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、申告・納付の手続を行う必要があります。このとき、相続人の誰がどの遺産をどれだけ相続するかによって、各相続人が支払うべき相続税が異なってきますので、基本的には相続税の手続の期限内に遺産分割協議がまとめた上で、申告・納付をすることが原則です。もし、当該期限までに協議がまとまらない場合は、各相続人が法定相続分を取得したものとみなして、申告・納付をすることができます。

遺産分割協議がまとまらないことによる不利益

相続税軽減のための特例が適用されない

 遺産分割協議が成立しなければ、配偶者の税額軽減の特例(配偶者が遺産を相続する場合の税額軽減の特例)や、小規模宅地の特例(故人の自宅や事業用として使用していた宅地を相続した際、評価額を最大で80%減額できる制度)が受けられません。

 なお、相続税の申告期間内に、3年以内に分割見込みである旨の申告をすれば、特例の期間を伸長することは可能ですが、家庭裁判所において遺産分割調停中であるなど、遺産分割をすることができないやむを得ない事情がなければ、特例の適用を受けることができません。

相続財産の管理に支障をきたす

 相続が開始し、遺産分割協議前の状態である場合、遺産は法定相続分に応じ、相続人全員で共有している状態となります。共有物につき処分(遺産である不動産の売買や建物の増改築・大規模修繕・解体等)を行う場合には、相続人全員の同意が必要ですので、各共有者にとっては、自由に処分行為が行えません。相続人が1人でも反対すれば、遺産の処分はできないことになります。

相続人にさらに相続が発生し権利関係が複雑化する

 被相続人が亡くなってから時間が経ちますと、相続人であった人も亡くなる場合があります。相続人であった人の権利は、その相続人に引き継がれるため、相続人の数がどんどん増えていきます。遺産分割協議はすべての相続人で行わなくてはなりませんので、相続人の中に一人でも協力してくれない人がいたり、認知症の人や行方不明者がいれば、遺産分割協議が思うようにできなくなってしまうこともあります。 以下、具体的によくある事例をご紹介しましょう。

【事例】Bさんは現在、何年も前に亡くなった祖父Aさん名義の土地建物を管理しています。Bさんは、固定資産税の納税や老朽化した建物の手入れ等、その管理が大変になってきたため、建物を取り壊して更地にして不動産業者に売却することにしました。Bさんは売却に先立ち、不動産業者から「土地建物がおじい様の名義なので、まずはあなたの名義にしてください」との指示を受けました。

   そもそもの話ですが、不動産は亡くなった方名義のままでは売却が出来ません。一旦不動産を相続した人の名義にしないと手続きができないのです。 そこで、Bさんは司法書士に依頼し、自分の名義にするため相続人の調査をしてもらったところ、なんとAさんの現在の相続人は25名であることが判明しました(下図参照)。これはAさんが亡くなってから何年も放置していたことが原因だったようで、Aさんの相続人であった人も亡くなり、その権利がそのまた相続人に引き継がれていくため、相続人の数が増えてしまったようです。中には会ったこともない相続人もいるようでした。Bさんは相続人全員と連絡を取り、全員から同意を得て書類に実印をもらわないと自分の名義にすることができません。

 結局のところ、遺産分割協議に期限が無く、いつでも行うことができるという仕組みが、所有者不明土地や空き家を作り出していることは否定できないといえるでしょう。

法改正で遺産分割協議期間に関する規定はどうなるか(令和5年4月1日施行)

 先述のとおり、相続が発生してから遺産分割がされないまま時間が経つと、相続人である者も死亡してさらに相続人が増えるなど、より遺産相続の手続きが複雑になります。そして、遺産分割を行う際、法定相続分等を各相続人の基本的な相続分とするほか、不公平とならないよう個別の事情(特定の相続人が故人から生前贈与を受けたことや、故人の療養看護に努めるなど特別の寄与をしたこと)を考慮した具体的な相続分を算定することがあります。

 今回の法改正では、故人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則としてこれらの個別事情を考慮せず、法定相続分等によって画一的に行うこととされました(改正民法第904の3柱書本文)。これは、相続発生から長期間が経過すると、個別事情を基礎づける証拠等がなくなり、事実関係を把握することが困難となってしまうことに対する考慮です。改正民法による新たなルールは、改正法の施行前に開始した相続についても適用されますが、施行時から5年間の猶予期間が設けられます。

 なお、改正民法は、共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始から10年を経過したときは、相続財産に属する共有物の持分について、共有物の分割を裁判所に請求できるものとしました(改正民法第258条の2②本文)。共有物分割ができるという例外的規定を無制限に認めてしまうと、当該分割の対象財産は遺産分割の対象から除外され、遺産分割は残存する他の遺産についてのみ行われるとともに、遺産分割ではできた遺産全体を総合的に考慮した分割ができない等、相続人に認められている遺産分割上の権利が害されてしまうことから、「相続開始の時から10年を経過したこと」が要件となっているようです。

 ただし、相続開始から10年を経過した場合でも、遺産分割の請求があり、かつ相続人が異議を述べたときはこの限りでないとされており(改正民法第258条の2第2項但書)、相続人が異議の申出をする場合、共有物分割訴訟が係属する裁判所から通知を受けた日から2か月以内に異議申出をしなければならないとされています(改正民法第258条の2第3項)。

 いかがでしたか。遺産分割協議が長引くと、様々なリスクが生じることになります。遺産分割でお困りの方は、是非当事務所へご相談いただけましたら幸いです。

無料相談受付中

誠心誠意、心を込めて対応いたします。

営業時間 平日9:00~18:00

026-219-6825(ご予約受付時間 平日9:00~19:00)

土日祝日相談・夜間相談・当日相談・出張相談

メールでのお問い合わせは24時間受付(原則24時間以内にご返信)

無料相談受付中

誠心誠意、心を込めて対応いたします。

営業時間 平日9:00~18:00

026-219-6825(ご予約受付時間 平日9:00~19:00)

土日祝日相談・夜間相談・当日相談・出張相談

主な対応エリア
若槻大通り沿い
長野電鉄信濃吉田駅から車で5分
駐車場完備
※電車でお越しの場合は信濃吉田駅または北長野駅が最寄駅です。